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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3408号 判決 1986年7月15日

原告 株式会社 住友クレジットサービス

右代表者代表取締役 鈴木雍

右訴訟代理人支配人 山本忠男

右訴訟代理人弁護士 川合孝郎

同 川合五郎

被告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 木村達也

同 村上正己

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二九万一一六四円及び内金二二三万三〇六四円に対する昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで日歩八銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は、昭和四八年四月一四日、原告との間において、左の約定の下に住友カード個人会員加入契約(以下「本件カード契約」という。)を締結し、住友カード会員となった。

(一) (カードの発行)

原告は、被告に対し、住友カード(以下「カード」という。)を一枚発行する。

(二) (クレジットサービス)

(1) 被告は、原告と契約した住友カード加盟店(以下「加盟店」という。)にカードを呈示し、所定の伝票に署名することにより、物品の購入、サービスの提供を受けることができる。

(2) 被告は、カードの利用により生じた加盟店の被告に対する伝票の額面金額債権を原告が加盟店から譲り受けることをあらかじめ承諾する。

(三) (キャッシュサービス)

(1) 被告は、原告と契約した金融機関において、カード及び原告が発行したキャッシュサービスブックを呈示して所定の伝票に署名することにより、原告から現金を借り入れることができる。

(2) 被告は、右借入金に対して原告所定の料率による手数料(借入金額の三パーセント)を借入期間のいかんにかかわらず支払う。

(四) (代金決済及び遅延損害金)

(1) 被告は、毎月一五日までの被告のカード利用による代金及び手数料等原告に支払うべき債務を、翌月の原告指定日(毎月一〇日、当日が金融機関休業日の場合は翌営業日)に支払う。

(2) 右指定日に支払のない場合には、その日の翌日から当該金額について日歩八銭の割合による遅延損害金を支払う。

(五) (カードの有効期限、会員規約の承認―以下「本件更新条項」という)

(1) カードの有効期限は原告の指定する日までとし、カード表面に記載する。

(2) 有効期限の一か月前までに被告から何らの申出がなく、かつ原告が被告を引き続き会員と認める場合は、原告は被告に新しいカードと会員規約を送付する。被告が新カードを利用したとき、被告は新会員規約を承認したものとする。

(六) (カードの紛失・盗難等の事故と責任―以下「本件責任条項」という)

(1) カード又はキャッシュサービスブックを紛失し、盗まれ、毀損し又は滅失させた場合、被告は金融機関又は原告に連絡のうえ、所定の届を提出する。

(2) カードの紛失又は盗難により他人に使用された場合、被告が責任を負う。ただし、被告に故意又は重大な過失がない限り被告の責任は右(1)の届出日以後三〇日目までの損害を限度とし、また、住友カード盗難保険に加入しているときは保険により補填を受けられる損害を被告の責任の限度とする。

(七) (届出事項の変更―以下「本件変更届出条項」という)

(1) 被告が原告に届け出た氏名、勤務先(連絡先)、決済預金口座等に変更があったときは、遅滞なく金融機関又は直接原告あてに、所定の用紙を用いて届出の手続をする。

(2) 右(1)の届出がないために原告からの通知又は送付書類その他のものが延着し、又は到着しなかった場合には、通常到着すべきときに被告に到着したものとみなす。

2(一)  原告は、本件更新条項(前記1(五))に従い、昭和五九年六月二二日、被告に対し、新しいカード(以下「本件新カード」という。)を簡易書留郵便により発送した。

(二) 右簡易書留郵便は、同月三〇日、大阪南郵便局の窓口で、被告本人又は被告から受領権限を与えられたいわゆる代人(郵便事務上の呼称)に交付され、本件新カードは被告に届いた。

(三)(1) 被告は、昭和四八年四月の本件カード契約締結の際、「松原市《番地省略》」を住所として届け出た(以下「旧住所」という。)。ところが、被告は、同年一〇月に「奈良県磯城郡《番地省略》」に転居した(以下「新住所」という。)のに、原告に所定の住居移転の届出をしなかった。そのため、原告は、旧住所にあてて、昭和五九年六月の本件新カードの発送をした。

(2) そこで、仮に被告が主張するように被告に本件新カードが到着しなかった場合は、本件変更届出条項(前記1(七))により、昭和五九年六月三〇日ころに、本件新カードが被告に到着したものとみなされる。

3(一)(1) 被告は、本件新カードを利用して、別紙「カード利用明細表(クレジットサービス)」(以下「クレジット明細表」という。)記載のとおり、各加盟店において物品の購入又はサービスの提供を受けた。代金の支払期日は、同表記載のとおり、昭和五九年一一月一二日、同年一二月一〇日、又は昭和六〇年一月一〇日である。

(2) 原告は、クレジット明細表債権譲受年月日欄記載の日に、同表記載の各加盟店から、同各加盟店が被告に対して有する同表記載の各代金額の代金債権の譲渡しを受けた。

(二) 被告は、本件新カードを利用して、別紙「カード利用明細表(キャッシュサービス)」(以下「キャッシュ明細表」という。)記載のとおり、原告から金員を借り受けた。借受金の支払期日は、昭和五九年一一月一二日である。

(三) 昭和五九年一一月一二日、同年一二月一〇日、昭和六〇年一月一〇日が各経過したが、右代金及び借受金の支払はない。

4  仮に、被告が主張するように、被告以外の者が右3(一)及び(二)の本件新カードの利用をしたとしても、紛失カード等の他人の不正使用に関する本件責任条項(前記1(六))により、被告は、右3(一)の代金及び同(二)の借受金の支払の責を負う。

5  よって、原告は、被告に対し、次のとおり、金員の支払を請求する。

(一) 譲受債権代金額合計金二一三万三〇六四円(クレジット明細表代金額合計)及び貸付金一〇万円(キャッシュ明細表元本額)の合計金二二三万三〇六四円

(二) 右(一)の貸付金一〇万円に対する約定手数料金二三六〇円

(三) 右(一)のうち昭和五九年一一月一二日を支払期日とする元本金一三万三〇〇〇円に対する同月一三日から同年一二月一〇日までの日歩八銭の割合による約定遅延損害金二九七九円

(四) 右(一)のうち昭和五九年一二月一〇日を支払期日とする元本金一九九万四四六四円及び右(三)の未払元本金一三万三〇〇〇円の合計金二一二万七四六四円に対する昭和五九年一二月一一日から昭和六〇年一月一〇日までの日歩八銭の割合による約定遅延損害金五万二七六一円

(五) 右(一)の元本合計金二二三万三〇六四円に対する弁済期の後日である昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで日歩八銭の割合による約定遅延損害金

(右(一)の元本、右(二)の手数料、右(三)、(四)の確定約定損害金の合計額は金二二九万一一六四円である。)

二  請求原因に対する被告の認否等

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は知らない。

(二) 同2(二)の事実は否認する。

(三)(1) 同2(三)(1)の事実中、原告の本件新カード発送の点は知らないが、その余は認める。

(2) 同2(三)(2)の主張は争う。本件変更届出条項は、到着したとみなされるものにつき、原告からの「通知または送付書類その他のもの」と規定している。本件カード契約において最も重要なものは原告が発行するカードであるが、これが右の例示に含まれていない以上、カードについて本件変更届出条項が適用されるとは解し難い。

3(一)  同3(一)の事実は否認する。

(二) 同3(二)の事実は否認する。

(三) 同3(三)の事実は認める。

4  同4の主張は争う。本件カード契約は、昭和四八年四月に締結されているが、被告は昭和五〇年四月五日にカードを使用した後は、一度もカードを使用していない。被告のカード使用は六回だけである。被告は、昭和五一年一一月一日原告受付けの決済口座の変更届を出しているが、これが被告側から原告と係わりをもった最後の出来事である。被告が長期間にわたってカードを使用していなかった事実から、原告は、被告がカードに興味を失っていること及び住所変更その他の必要な届を怠っているかもしれないことを十分に予測できたのに、漫然と新しいカードの送付を繰り返し、そのために本件のような他人による不正使用の事故の発生をみたものである。このような事情の下では、カード発行企業である原告に不正使用による損失を引き受けさせるのが合理的であり、被告に対しては本件責任条項の適用がないと解すべきである。

5  同5の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  本件カード契約の締結

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  カード契約の更新

1  (原告による本件新カードの発送)

《証拠省略》によれば、原告が昭和五九年六月二二日被告あてに簡易書留郵便で本件新カードを発送した事実(請求原因2(一))を認定することができる。

2  (被告が本件新カードを受け取ったか否かについて)

(一)  《証拠省略》によれば、大阪南郵便局長から原告あてに、本件新カード在中の右簡易書留郵便の配達状況に関する調査結果を知らせる通信事務用の葉書が届いていること、この葉書には、右簡易書留郵便が昭和五九年六月三〇日郵便局の窓口で受取人又は代人に交付されている旨の記載があること、一般に、書留郵便物は、受取人本人が不在であるときは、本人の家族がいれば「代人(郵便事務上の呼称)」としてこれを受領させるが、本人、代人とも不在のときは、速達扱いのものを除き、不在配達通知書を作成し、これを郵便受箱又は郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れ、郵便物は持ち戻ること、この場合、受取人本人が郵便局の窓口に郵便物を受け取りに行くと、郵便局は、右不在配達通知書の提出を求めると共に受取人本人であることを証明できる書類の提示を求めて本人を確認し、書留郵便物配達証に受領印を受けて書留郵便物を交付すること、身分証明書、運転免許証、健康保険証、貯金通帳などが右本人確認の資料となること、代人による窓口受領の際には右のほか種類の指定はないけれども受取人本人と代人との関係が明らかになる書類等の指示が求められることを認定することができる。なお、《証拠省略》によれば、原告は、被告に対し、① 昭和四九年六月、② 昭和五一年六月、③ 昭和五三年六月、④ 昭和五五年六月、⑤ 昭和五七年六月に、いずれも旧住所にあてて簡易書留の方法でカードを送付したがその返送はなく、今回の昭和五九年六月の本件新カードの送付についても同様であったことを認定することができる。

以上の認定事実によれば、被告又は権限のある被告の代人が昭和五九年六月三〇日に本件新カード在中の前記簡易書留郵便を受領した旨の請求原因2(二)の事実を推認するのが相当であるように思われる。

(二)  しかしながら、《証拠省略》によれば、次の事実を認定することができる。

(1) 被告は、昭和四八年四月の本件カード契約締結に当たって、松原市高見の里の旧住所を原告に届け出たが、同年一〇月に奈良県磯城郡の新住所に移転した(この事実は、当事者間に争いがない。請求原因2(三)(1))。

(2) 被告は、旧住所に事務所をおいて、マリブ大阪という名称で、サーフボードの仕入れ及び卸しの仕事をしていた。新住所に移転後も、事務所はしばらくの間旧住所に残してあり、昭和五二年中に、ここを引き払った。

(3) この間、被告は、原告に対し、昭和四九年六月に妻を家族会員にする申込みをし、同年九月三〇日、昭和五〇年四月一四日、昭和五一年一一月一日にそれぞれ原告が受け付けた書面で、いずれも決済口座の変更を届け出た。右申込書及び届出書の住所欄にはすべて旧住所が記載されていた。その後、昭和五九年一二月一二日に、本件新カードの利用代金の決済について弟に無断で使用され現在行方を探しているのでしばらく待って欲しい旨の、原告からの問い合わせに対する返信の葉書を差し出すまでの間、被告は、右申込み及び届出以外には原告に何らの連絡もとっていない。旧住所から新住所への変更届はついに最後まで出していない。また、被告の使用の有無が問題になっている本件新カードを除けば、被告が原告発行のカードを使用したのは昭和五〇年四月五日が最後である。それまでに六回使用されただけであった。

(4) 被告が新住所に転居し、事務所もここへ移転した後も、被告の父及び被告の実弟である訴外甲野二郎が従前どおり旧住所に住んでいた。旧住所は借家であったが、被告の父及び弟は昭和五三年一〇月ころから昭和五四年四月ころにかけて、ここを立ち退いた。この家は、その後空いたままになっており、昭和五四年か同五五年ころからは、戸口に板が打ち付けられていて、昭和六〇年八月ころからその取り壊しが始まった。右甲野二郎は、右立退き後、旧住所から一〇メートルくらい離れたアパートの貸室を借りて住んでおり、昭和五九年四月ころ、松原市《番地省略》の貸間に転居した。ところが、同年一〇月初めころから、右甲野二郎は、右自宅に戻らなくなり、その後同人の行方は判明しない(住民票によれば、被告を世帯主とする住民基本台帳に右甲野二郎が昭和六〇年四月一九日に転入を届け出た旨の記載があるのでやや疑問であるが、これだけでは所在不明の右認定を左右しないと判断した。)。

(5) 本件新カード在中の簡易書留郵便は、旧住所あてに発送され、昭和五九年六月三〇日、郵便局の窓口で受取人又は代人に交付された扱いになっているが(前記(一)に認定のとおり)、本件新カードが実際に利用されたのは、同年一〇月一四日から同月二二日までの間で、この間の使用回数は六二回に及ぶ(クレジット明細表及びキャッシュ明細表のとおりである。右甲野二郎の所在がつかめなくなった時期と一致する。)。不正使用の疑いがあるとして原告から加盟店に本件新カードの無効通知を出したところ、昭和五九年一〇月二九日、大阪市内のカメラ店で本件新カードが呈示された際、これを回収することができた。本件新カードの使用者はその場から逃走した。

(6) なお、クレジット明細表の六一回の使用に関する甲第二号証の一ないし六一(売上伝票)の署名欄に記載されている「コウノタロウ」というカタカナ書きの被告の氏名は、被告が書いたものではない。

(三)  そこで、右(一)及び(二)の認定事実を対照して判断するに、被告の弟である訴外甲野二郎が被告に断わらずに郵便局の窓口で本件新カード在中の前記簡易書留郵便を受領し、本件新カードを勝手に使用した疑いを打ち消すことができないというべきである。右(二)(5)に認定したとおり、本件新カードは原告に回収されているので、そこに記載されている筈の被告の署名の筆蹟が被告自身のものであるか否かを検討することによって、いま少し明快な判断が可能となるようにも思われるが、本件新カードの証拠としての提出はない。

(四)  右の次第であって、右(一)の認定事実だけでは、被告又は受領権限のある代人が本件新カードの交付を受けた旨の請求原因2(二)の事実を認定するに足りないと認める。他に右請求原因事実を認定するに足りる証拠はない。

3  (本件変更届出条項の適用の有無)

(一)  請求原因2(三)(1)の事実中、被告が原告に対し旧住所から新住所への住所変更届をしなかった点は、当事者間に争いがなく、右2(二)(5)に認定のとおり、原告は旧住所にあてて本件新カードを発送した。

(二)  ところが、右2に説示のとおり、被告が本件新カードの交付を受けた事実の立証がないので、本件変更届出条項により本件新カードが被告に到着したものとみなされるか否か(請求原因2(三)(2))について、検討する。

ところで、本件更新条項(請求原因1(五)。前記一に説示のとおり、当事者間に争いがない。)は、「カードの有効期限が経過する際には、原告が被告を引き続き会員として認める場合に、新しいカードを送付する。」旨を定め、契約を続けるか否かの選択権を原告に留保している。したがって、原告は新しいカードを送付しないままカードの有効期限の経過をまって本件カード契約を終了させることができる。そうだとすると、カードの有効期限は本件カード契約の契約期間を示すもので、新カードの送付は契約更新の申込みであると解される。そして、被告が送付を受けた新しいカードに自己の氏名を署名すれば、いわゆる意思実現による承諾の効果を認めてよいように思料されるが、本件更新条項は、「新しいカードの利用をもって新会員規約の承認とする。」旨を定めているので、右利用のときにはじめて契約更新の合意が成立するものと解するのが相当である(清水巖「クレジット・カード取引の法構造3」法律時報四八巻二号一八五頁の『更新および終了』の項の見解に従った。)。

そこで、被告が住所変更届を怠ったことを理由に本件新カードの送付に関して本件変更届出条項を適用してこれが被告に到着したものとみなしても、現実に被告が本件新カードを入手していない以上、カードへの署名やカードの利用は実現し難く、契約更新の合意が成立する余地はないから、カードの送付に本件変更届出条項を適用しても意味のないことである。本件変更届出条項(請求原因1(七)。前記一に説示のとおり、当事者間に争いがない。)は、到着したとみなされるものの例として「カード」を掲げておらず、「通知または送付書類その他のもの」と規定しているが、カードについても本件変更届出条項の適用が予定されていたというのであれば、これは本件カード契約の基本となる最も重要なものであるから、右例示にカードが含まれていないのは不自然なことといわねばならない。

右の次第であって、本件変更届出条項は、本件カード契約の存続を前提として、カード以外のものの延着や不着につき、しかるべき時期に到着したものとみなすことを定めたに過ぎず、新しいカードの送付については本件変更届出条項の適用はないと解するのが相当である。

4  (まとめ)

よって、本件新カードによる本件カード契約の更新につき立証がないので、原告の請求は理由がないことが明らかであるが、なお念のため他の争点についても判断を示すこととする。

三  本件新カードの使用

被告が本件新カードを利用して物品の購入若しくはサービスの提供を受け又は金員を借り受けた旨の請求原因3(一)(1)及び(二)の事実に関する証拠としては、前記甲第二号証の一ないし六一(売上伝票)が存在する。しかしながら、前記二2(二)(6)に認定のとおり、この六一枚の売上伝票の各署名欄にそれぞれ記載されている「コウノタロウ」というカタカナ書きの被告の氏名は、被告が書いたものではないことが認められ、本件証拠上は甲第二号証の一ないし六一の真正な成立を認めるに足りない。したがって、甲第二号証の一ないし六一は、右請求原因事実を認定する証拠資料とはなし難く、他に右請求原因事実を認定するに足りる証拠はない。

右の次第であって、被告が本件新カードを受領した事実を立証するに足りる証拠がないというだけでなく、被告が本件新カードを利用した事実を立証するに足りる証拠も存在しない(なお、原告が回収した本件新カードの提出がなく、被告が本件新カードに署名したことの立証もない。)のであって、本件カード契約の更新については、その申込み及び承諾ともに立証が尽されていないこととなる。

四  本件責任条項の適用

以上に認定説示のとおり、本件新カードによる契約更新の立証がなく、本件カード契約は終了しているから、本件新カードについて本件責任条項が適用される余地はない。(なお、住所変更の届出は、本件カード契約上被告に課せられた付随的な義務と解せられるが、簡易書留郵便が旧住所あてに発信された場合名宛人の受取りがないまま返送されるのがふつうであり、他人がこれを受領することは通常予測し難い特別事情であるから、被告の右付随的義務の不履行と他人がなした本件新カードの不正使用による損害発生との間には、因果関係がなく、被告は、一般の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任を負うこともない。)

五  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富田守勝)

<以下省略>

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